【競艇短編小説】6月25日に生まれた男に奇跡 ― 6-2-5を買い続けた先に起きた物語(全10話)

小説

【競艇短編小説】6月25日に生まれた男に奇跡 ― 6-2-5を買い続けた先に(全10話)

第1話 誕生日のジンクス

6月25日生まれの男・倉本誠(くらもと まこと)には、ひとつの小さな癖があった。
誕生日にちなんで「6-2-5」だけを買うこと。

競艇初心者の頃、偶然その数字で万舟を取った。
それ以来――彼にとって「6-2-5」は人生の支えだった。

しかし最近は当たらない。友人に笑われ、恋人にも呆れられ、
「6-2-5」だけを買い続ける倉本は、半ば都市伝説扱いになっていた。

第2話 常滑の朝

この日、倉本は久々に休みを取り、常滑競艇に足を運んだ。
理由はない。ただ、胸騒ぎがする。
「今日は……来る気がするんだ」

モーターの音が胸に響き、潮の香りが風に運ばれてくる。
いつものように、倉本は窓口で静かに言う。

「6-2-5を1000円で」

第3話 元恋人・茜

場内で偶然、元恋人の茜(あかね)と再会する。
別れて半年。彼女は新しい恋人と来ていた。

茜「まだ“6-2-5”買ってるの?」
誠「まあね。やめられないんだ」

茜「誠のそういうとこ、嫌いじゃなかったけど……変わらないね」

胸に小さな痛みが刺さる。しかし倉本は穏やかに笑った。

第4話 謎の老人

倉本が選んだのは第10レース
艇番を見れば「6-2-5」はほぼ来ない組み合わせ。

白髪の老人が声をかけてきた。

老人「6-2-5……その買い方、わしは嫌いじゃない」
誠「ありがとうございます。でも、ただのジンクスですよ」
老人「ジンクスが人生を変えることはある。わしはそれで、嫁さんと出会った」

老人の目は、不思議と優しかった。

第5話 10レース開始

スタート展示では6号艇が遅れ、客席で笑いが起きる。
「6なんて絶対届かんわ」
「6-2-5なんて宝くじより薄い」

倉本は拳を握った。しかし胸の中では別の声が囁く。
――今日は違う。

本番、6号艇・久保田凜がピット離れで飛び出した。
場内がどよめく。

第6話 まさかの展開

スリットライン、6号艇がコンマ01トップスタート。

実況「外から6号艇・久保田! まくりに入ったぁーーー!!」

1マーク、豪快にまくり切り先頭へ。
倉本の心臓が軋むほど脈打った。
(嘘だろ……本当に来るのか?)

第7話 2番と5番の攻防

隊列は6 → 2 → 5
倉本の手が震える。

(このまま……! 頼む……!)

だが最終2マーク、5号艇が失速し4号艇が並びかける。
誠「やめろ……やめてくれ……!」

第8話 奇跡の差し返し

最終ターン。4号艇が外を抑える。
その瞬間――

5号艇のハンドルが、わずかに内へ切られた。

無謀とも思える角度。しかし、それが奇跡を起こす。
5号艇が4号艇の内側を鋭くすり抜ける。

実況「差し返したぁぁぁ!!」

第9話 決着 ― 6-2-5

掲示板に灯る数字。

6 2 5

倉本は涙をこぼした。

老人「今日は、あんたの日じゃ」

茜も驚きつつ笑顔で言う。
「……誠、やったじゃん」

第10話 奇跡の先へ(ハッピーエンド)

万舟となった払い戻し金。
誠は母の治療費を払い、借金を整理し、茜に電話した。

誠「もう一度……やり直せないかな」

茜「その“6-2-5の奇跡”、隣で見たいかも」

常滑の空を見上げる誠。
信じ続けた者にだけ訪れる、たった一度の奇跡。

「6-2-5を1000円で」
――奇跡は、信じる者のそばにある。

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